歯から考えるルーツ 1

日本人の歯の特徴

写真は上の前歯の裏側です。深いくぼみがあるのがお分かりになるでしょうか。このくぼみは舌側面窩というもので、日本人や中国人をはじめとする東北アジアの人々の特徴です。
 東南アジアの人々では、くぼみの程度がもう少し弱くなります。さらに,ヨーロッパ人などではもっと程度が低くなり,くぼみが全くない人もたくさんいます。

 なぜシャベル型をしているかというと、皮をなめしたり道具を作るために前歯を利用して、そこにかかる負荷に耐えうる形態になったのだと言われています。しかし、ヨーロッパ人は牧畜生活に適応してシャベル型を失い、一方,現代の東南アジア人も農耕生活によりシャベル型を失ったようです。

我々とイヌイットはルーツは同じ ?

 ところで、このくぼみはイヌイット(エスキモー)、古層インディアン(北米のインディアンのご先祖様)もこのシャベル型の特徴を持っています。そこで、以下のような2つの説があるようです。

南方起源説

 7万年前ほどから地球は氷期に入り、大量の水が氷として陸地に固定されたために海水面が低下し、東南アジアにはスンダランドという広大な陸地が広がっていました。アフリカに起源する新人(ホモ・サピエンス)が5万年ほど前にヒマラヤの南側を通ってそこにたどり着き,さらに移動を続けオーストラリア原住民となる人たちがオーストラリアまでたどり着きました。

アジアに残ったグループは,東南アジアにいる人たちのご先祖様だろうといわれています。この人たちは、前歯の裏のくぼみが少ない集団です。

 その後(1万2千年前)の海面上昇により,スンダランドのほとんどが海面下に沈んでいきました。沈むまでの間に一部の人たちが大陸の沿岸地帯や内陸部を北方に移住していきました。このうち内陸経由の集団が北東アジア人となり,寒冷地適応を遂げるうちにくぼみの深い歯になっていきました。彼らの中には,ベーリング陸橋を渡り(1万2千年は陸続きであったらしい)、イヌイット(エスキモー)とよばれる集団の基礎をなし、また,アラスカから北米大陸さらに南米大陸に広がった集団もあり,彼らは後世いわゆるインディアンとよばれる集団の基礎となりました。驚くことにこの人たちの移動は、1万1千年前には南米チリの南端にまで達していたようです。

北回り起源

 アフリカを出た 新人(ホモ・サピエンス) の移動には、ヒマラヤ山脈の北を通って 移動したという説です。東南アジアを通らず北東アジアにたどり着き、前歯のくぼみの強い集団となり、その集団の一部が南下して、南のオーストラリアの人たちと混血してくぼみの弱い集団(スンダドント)になったという説があります。現在は、こちらの説のほうが有力だと言われています。

 このような研究は、遺伝子などを使って調査されるのが主流ですが、歯を使った調査も行われていて、日本の研究者からも後者の説を証明する研究が行われています。

 歯を磨くときには鏡を見ながら、海の向こうのインディアンの人たちとルーツが同じだと太古のロマンを膨らませてください。